理系のためのAIエージェントへのナレッジ管理
はじめに:AIを使い続けると情報管理が課題
AIに入力・出力する文章量が,ここ最近で一気に増えました.ChatGPT も Claude も日常的に使いますし,モデルやサービスも次々に増えていきます.そのたびに同じ文脈を渡し直すのが,地味に面倒になってきました.
もうひとつ困るのが乗り換えです.契約を柔軟に変えたい,あるいは複数を併用したい.そう思っても,ブラウザのサービスにべったり依存していると,乗り換えた瞬間にこれまでの「記憶」が消えてしまいます.このブラックボックスをどうにかしたくて調べたので,分かったことをメモ代わりに残しておきます.
Notion → Obsidian への移行
メモはもともと Notion で管理していました.ただ動作がもっさりしていて使いづらく,卒論発表を終えて時間ができたタイミングで Obsidian に移しました.
ナレッジ管理
1. Vault の Wiki 化
Vault(Obsidian でいうリポジトリ)をまるごと AI に読ませても,うまくいきません.プロンプトを大量に食う割に,肝心の答えがぼやけるからです.
そこで,読ませる前に Vault を Wiki 化しておきます.用意するのは二つ.直近の重要な文脈だけを凝縮した Hot Cache と,テーマごとに整理した Wiki ページです.AI はまずマップで全体像をつかみ,Wiki で必要な部分を確認し,それでも足りないときだけ原文まで降りていきます.この段階構造を挟むだけで,プロンプトの消費はぐっと減ります.
使っているのは AgriciDaniel/claude-obsidian のスキルです.Obsidian ファイルを直接いじる obsidian-markdown,obsidian-bases,defuddle,json-canvas のほうは,Obsidian の CEO である Steph Ango が公開している kepano/obsidian-skills が出どころになります.
それぞれの役割はかなりはっきり分かれています.
wiki:Obsidian Vault を AI 用 wiki として使うための入口.wiki-ingest:既存ノートから AI 向け要約ページへの変換.wiki-query:wiki と必要な原文を参照した質問応答.wiki-lint:リンク切れ・孤立ページ・frontmatter 不足の点検.obsidian-markdown:Obsidian 記法に沿った Markdown ノートの作成・編集.obsidian-bases:Obsidian Bases の.baseファイルの作成・編集.
2. MCP(Model Context Protocol)による外部連携
Zotero MCP
Zotero MCP を入れると,AI が自分で Zotero を見にいってくれます.論文同士を参考文献リンクで繋いでおけば,サーベイの効率もはっきり上がりました.自分の研究は最先端に近い領域で,最新論文を大量にチェックしないと話になりません.だからこのメリットはとくに大きいです.
論文側の知識管理には psypeal/claude-knowledge-vault のスキルを使います.持ってきたのは knowledge-vault:ingest-zotero,knowledge-vault:query,knowledge-vault:lint あたりです.
claude-obsidian が「自分のメモを AI 用 wiki にする」スキル群だとすれば,claude-knowledge-vault は「Zotero に入れた論文を研究知識ベースにする」スキル群にあたります.入力になるのは Zotero のコレクション,DOI,論文メタデータ,PDF 本文,ハイライト,メモ.そこから論文ごとのサマリーや関連概念のページを起こしていきます.まとめる対象は要約だけにとどまらず,手法,データセット,著者,研究分野,引用関係まで及びます.
おかげで「この論文を要約して」で終わらなくなりました.「この分野でよく使われる手法は何か」「自分の研究に近い論文はどれか」「前に読んだ論文と今回のものは何が違うか」.こうした文献横断の問いが投げやすくなります.
ただし ingest はトークンを大量に食うので,週末に余ったタイミングで回すようにしています.
NotebookLM MCP との併用
最近は NotebookLM 側にも MCP 経由でアクセスできるようになりました.とはいえ論文の取り込みや要約,関連概念ページの生成は Zotero と knowledge-vault:ingest-zotero でほぼ完結しています.NotebookLM はあくまで補助として添える程度に使っています.
3. AIごとの指示書を用意して切り替えをスムーズに
ツールごとに CLAUDE.md や AGENTS.md といった指示書を先に書いておくと,どの AI を使っても同じ文脈・同じルールで動かせます.サービス間の切り替えもこれでだいぶ楽になりました.入口はツールごとに分けます.Claude Code なら CLAUDE.md,Codex なら .codex/AGENTS.md といった具合です.
ここで効いてくるのが,指示書を「どこに置くか」です.置き場所によって効く範囲が変わります.句読点の流儀やダッシュ禁止,commit メッセージの規約のような,自分自身に紐づくルールを考えてみてください.これらは本来リポジトリではなく自分に属するものですから,ユーザーグローバルの設定に書くのが筋になります.Claude Code なら ~/.claude/CLAUDE.md,Codex なら ~/.codex/ です.ここに一度書けば,あらゆるリポジトリで効きます.一方で Vault の構造や研究固有の前提は,そのリポジトリの AGENTS.md に置きます.
「全リポジトリ共通」と「このリポジトリ固有」を分けておくと,同じルールを書き写す手間が消えます.グローバル側は dotfiles として git 管理すれば別マシンでも再現できます.AI は指示書を読んで必要なノートへ自分で移動するので,毎回同じ文脈を説明し直す必要もありません.
ざっとまとめるとこんな感じです.
| 目的 | スキル | 取得元 |
|---|---|---|
| 普通のメモ,日記,研究ノートを AI 用 wiki にする | wiki, wiki-ingest, wiki-query, wiki-lint | AgriciDaniel/claude-obsidian |
| Obsidian ノートや Bases を直接編集する | obsidian-markdown, obsidian-bases | kepano/obsidian-skills |
| Web ページをクリーン Markdown に変換する | defuddle | kepano/obsidian-skills |
| Canvas ファイルを作成・編集する | json-canvas | kepano/obsidian-skills |
| Zotero の論文を知識ベース化する | knowledge-vault:ingest-zotero | psypeal/claude-knowledge-vault |
| 論文知識に質問する | knowledge-vault:query | psypeal/claude-knowledge-vault |
まとめ:AIの記憶をブラックボックスにしない
Obsidian を導入する前は,ブラウザアプリの AI を使っていて,「記憶」はすっかりブラックボックスになっていました.
Obsidian をハブに据えてからは,景色が変わりました.どの AI に何を渡しているかが目に見えるようになり,Vault が共通の記憶基盤になったぶん,サービスを乗り換えても痛手が小さくて済みます.プロンプトの消費も減って,返ってくる答えの精度も上がりました.
AI に入力する情報をどう構造化するか.案外これ自体が,これからの個人の知的生産を左右するスキルになっていく気がしています.